今だからこそ語れる「Murir(ミュリル)」の開発秘話をインタビュー

エーデルワイスから、自分時間を豊かにしてくれるチョコレートブランド「Murir(ミュリル)」が生まれました。甘いだけじゃない、“おとな”のためのミルクチョコレートです。その誕生の裏には、数々の挑戦があったといいます。素材一つにとことんこだわり、細部まで計算しつくされたミルクチョコレートは、自立した大人にこそふさわしい贅沢な味わいです。今回は、開発を担当したシェフパティシェの橋口将輝さん、早田忠博さんにお話を伺いました。

難しいからこそ感じるやりがい

――これまでのご経歴やお仕事の内容についてお聞かせ願えますか。

橋口シェフ:2005年の入社以来、17年勤続しています。最初は現場のスタッフとして従事し、2009年から商品開発部に配属されました。弊社では「アンテノール」をはじめとした洋菓子ブランドとベーカリーブランド「ルビアン」の7ブランドを展開しており、そのうち私が担当しているのは4ブランドです。商品開発部は少数精鋭のチームなので、洋菓子や焼き菓子など、バラエティに富んだ数多くの商品に関わらせていただいています。

早田シェフ:2007年に入社し、現場で経験を積んだのち、7年ほど前にチョコレートのメイン担当を任されました。チョコレートブランド「ヴィタメール」をはじめ、チョコレート商品の開発と製造を一手に担っています。

――新商品の開発担当者に任命された当初のお気持ちをお聞かせください。

橋口シェフ:これまで10年以上、開発部門に籍を置き、新しいブランドの立ち上げにも携わってまいりました。しかし、今回はお客様とダイレクトにつながるD2C事業という初の試みで、主に百貨店で展開してきた既存ブランドとは大きく異なります。商品を直接見ることなく、サイトから画像を通して購入する形になるので、味の構成から、商品のデザイン、パッケージ、心に響くブランドストーリーに至るまで、すべてを紐づけてお客様の購買意欲をかきたてなければなりません。当初は、楽しみよりも不安の方が大きかったですね。

早田シェフ:私自身、ブランド立ち上げが初めてだったので、本当にわからないことだらけでした。私一人の力では成し遂げられないプロジェクトでしたが、チームとして目標を共有し、互いの知恵や経験を生かしたからこそ、ここまでこられたと感じています。

――商品開発をされるにあたって一番大切にされたことはなんですか?

早田シェフ:今回は「“おとな”のミルクチョコレート」というキーワードだったので、男性でも女性でも大人になっても本当においしいと思える、贅沢な気持ちになれるようなチョコレートづくりを意識しました。

橋口シェフ:D2C事業において最も大切なのは、単においしいという枠を超え、ブランドの世界観やコンセプトをお客様に伝えることだと思います。どのようなシーンで召し上がっていただきたいか、どんな気分を味わっていただきたいかなど、私たちの想いを意識して商品に落とし込みました。チョコレートそのものだけでなく、ロゴマークやパッケージのデザインにもこだわり、すべてがブランドのコンセプトに合うような形にしています。

「“おとな”のミルクチョコレート」という新たな試みへの挑戦

――いざ、開発が始まって、現実と理想のギャップのようなものはありましたか?

橋口シェフ:最近では、ハイカカオチョコレートや機能性チョコレートの人気が高まっています。大人ならハイカカオ、ミルクチョコレートは子ども向けといったイメージが広く浸透している中で、そうした固定概念を覆して「“おとな”のミルクチョコレート」という新しいカテゴリーを定着させるのは安易なことではありません。そこに、やりたいことと現実のギャップを感じました。

早田シェフ:話し合いの過程で「ミルクチョコレートを大人らしく、カッコいいイメージに」というゴールは見えていたのですが、簡単には形にならなくて悩みましたね。いろいろなミルクチョコレートを組み合わせてみても、大人にフィットするものになかなかならなくて。最終的に、そのまま召し上がっていただいても、アレンジしてもおいしいミルクチョコレートを自分たちの手で作ろうという話になりました。

――商品の開発にはどのくらい時間がかかりましたか?

早田シェフ:素材の調達から製造・開発まで手がけるのは初めての経験だったので、手探りの部分が多かったですね。何十種類もの組み合わせを試し、配合にも微妙な調整を加えながら何度も作り直して、トータルすると半年以上を費やしています。ミルクチョコレートにおいて大きな役割を担うミルクは果たしてどうやって選ぶか、そのミルクにどのようなカカオを組み合わせたらいいか試行錯誤しました。その結果、1枚でも満足感がありながら、2枚3枚と手が伸びるようなミルクチョコレートを完成させることができました。

――製作する過程で特に苦労した点を教えてください。

橋口シェフ:従来のミルクチョコレートは甘みが強く、口の中が甘ったるくなりがちです。口内に残った味をリフレッシュするために、コーヒーや紅茶などの飲み物に頼らざるを得ないところがあります。お酒やスパイスを使って甘さを抑える方法もあるのですが、そうすると本来の良さが損なわれかねません。それらの力を借りずに、カカオの風味をしっかりと感じながらも、後味はすっきりしたミルクチョコレートを生み出すことに苦労しました。

早田シェフ:大人を意識してカカオを強くしすぎるとミルクの香りがなくなってしまいますし、かといってミルクを強くすると子どもっぽくなってしまいます。両者の味の違いを明確に出すのが難しかったです。繊細な味わいをイメージしていたので、大味にならないよう、素材のやさしい甘さや香りを生かすことに苦心しました。

チョコレートの厚みにまでこだわり、なめらかなくちどけを追求

――素材の選定からこだわられたそうですが、どんな材料を使っているのでしょうか?

橋口シェフ:ミルクチョコレートの新しい価値を創造するため、素材の選定には時間をかけました。最終的に選んだのは、ユネスコ生物圏保存地域でストレスなく育った乳牛由来の稀少なメドゥミルクと、渋みが少なく花のような繊細な香りが特徴のエクアドル産カカオです。今回の開発で一番驚いたのは、ミルクのポテンシャルの高さです。チョコレートに使うミルクは全脂粉乳や脱脂粉乳が多く、水に溶いたときにダマになったり、加熱すると乳の成分が焦げついて風味が変わったりするのがネックでした。ところがメドゥミルクは、水で溶いてもコクや風味はそのままに元の牛乳に戻り、雑味のない自然な味わいが持続します。おいしいものを探して行き着いた材料は、いずれも環境や生態系を破壊しないよう配慮されており、結果的にサステナブルな選択につながっています。

――それ以外にこだわった点はどんなところですか?

橋口シェフ:味はもちろん、大きさや厚さ、切り込み線の深さ、ロゴマークの位置までこだわりました。たとえば厚さ一つをとってみても、それだけで口の中で溶ける時間が変わってきます。あまりに分厚いチョコレートだと、いつまでも口の中に残って少々くどい印象になるので、スッと溶けて食べやすい薄さにしました。何度も試作を重ねて、くちどけや風味、食感など、細部に至るまで綿密に計算しつくしています。口に入れたときに違和感がなく、おいしいと思っていただければ、それが私たち開発者にとって最大の褒め言葉ですね。

――商品のラインナップを教えてください。

早田シェフ:余計なものをまったく加えず、ストレートに本来の味わいを楽しんでもらうものから、ミルクチョコレートの可能性を引き出したものまで、それぞれ異なる目的を持った多彩なミルクチョコレートを作りました。「ミュリル」「パヴェ・ドゥ・ミュリル」「ミュリル・オン・ビスキュイ」「バトン・ドゥ・ミュリル」「エタージュ」の5種類からニーズに合わせてお選びいただけます。ブランド名を冠した「ミュリル」は、こだわり抜いたミルクチョコレートだけを使ったシンプルな作りで、そのままお召し上がりいただきたい一品です。見た目にもこだわり、表面にグラフチェックを施して、大人らしさとかわいらしさを融合させた存在感のあるデザインになっています。

――他の商品についてもご紹介いただけますか?

橋口シェフ:「ミュリル・オン・ビスキュイ」は、「ミュリル」にクッキー生地を重ねたチョコレートサブレです。ゲランドの塩をきかせることによって、甘さやコクを引き出しました。プラスアルファの味わいとサクッとした軽快な食感を楽しめ、何枚も食べ進めたくなります。「エタージュ」は唯一冷凍で配送するチョコレートケーキです。濃厚なガトーショコラにまろやかな口当たりのガナッシュクリームや、ラムの芳醇な香りが加わり、立体的な味わいを醸しています。

早田シェフ:「パヴェ・ドゥ・ミュリル」は、「ミュリル」本来の香りを大切にした生チョコレートです。口にすると体温でスッと溶けて、アロマが口いっぱいに広がります。メドゥミルク本来の乳味を生かすために、通常入れる生クリームの脂肪分を可能な限り減らしました。キューブ型のフォルムが特徴で、かんだときの食感も楽しめます。「バトン・ドゥ・ミュリル」は、他の素材とのペアリングを楽しめるショコラ・バーです。しっとり濃厚でありながら心地よい軽さのあるガトーショコラと、カリッとしたナッツの異なる食感を味わっていただけます。

お酒とのマリアージュも楽しんでいただきたい

――今だから話せる「ここだけの話」があればお聞かせください。

橋口シェフ:今までミルクチョコレートについて熱く語らせていただきましたが、実をいうと個人的にはハイカカオ派なんです(笑)。ブランドを立ち上げるにあたって、初めてミルクチョコレートと正面から向き合ってみると、奥深い世界でびっくりしました。素材の組み合わせや配合バランスによって、新しい味わいを創造できるのが魅力です。あらためてミルクチョコレートの良さを見直しました。

早田シェフ:バトン・ドゥ・ミュリルを制作する過程で、全体の味がまとまらず試行錯誤していたときに、ふとお客様がお召し上がりになるシーンを想像してみたんです。週末の夜のホッとする時間に、ワインと一緒に召し上がっていただくのはどうかと思って、材料にワインをちょっと加えてみたら、味の橋渡し役を担ってくれて。素材一つで絶妙なハーモニーを作り出せることに驚きましたね。それ以来、ペアリングを強く意識するようになりました。

――おすすめの食べ方はありますか?

橋口シェフ:自分へのご褒美や気兼ねなく過ごせる仲間との集まりにお召し上がりいただければと思います。先ほどご紹介した「エタージュ」は、記念日のお祝いにもぴったりなケーキです。大切な時間を過ごす際に、ミュリルのミルクチョコレートをお供にしていただけると幸いです。

早田シェフ:大人は仕事にプライベートに何かと忙しいもの。緊張の糸が切れたときに、ミルクチョコレートをゆっくり嗜み、心癒される贅沢なひとときを過ごしていただきたいです。ミルクチョコレート特有のくどさがなく、しっかりカカオを感じられるので、コーヒーや紅茶はもちろん、お酒にもよく合います。お気に入りのマリアージュをお楽しみください。

――チョコレート好きな方に向けてメッセージをお願いします。

橋口シェフ:ハイカカオがお好きな方は、ミルクチョコレートの子どもっぽい甘さを懸念されるかもしれませんが、既存のものとは一味も二味も違った味わいになっています。商品によってそれぞれ特色があるので、個性豊かな食感や味わいを体験してみてください。味、形状、パッケージ、ストーリーのすべてがブランドの世界観を伝える重要な要素です。トータルで楽しんでいただければと思います。

早田シェフ:ハイカカオや機能性チョコレートは、どちらかというと頭で考えて食べるチョコレートではないかと考えています。ミュリルは、贅沢な大人の嗜みとして、心と体で感じられるチョコレートです。理屈抜きで、リラックスしてお召し上がりください。