チョコレートの新ブランド「Murir(ミュリル)」誕生の舞台裏を聞く

アンテノール」や「ヴィタメール」などを展開するエーデルワイスから、2022年10月に新たなチョコレートブランドが登場しました。“おとな”のミルクチョコレートをコンセプトにした「Murir(ミュリル)」です。健康志向の高まりとともに、ハイカカオや機能性チョコレートが人気を集める昨今、なぜあえてミルクチョコレートに着目したのでしょうか。今回は、ブランド担当者の友田祥加さんに、Murir誕生の舞台裏や、商品にかける想いについてお伺いしました。

「かっこいい大人」のためのミルクチョコレート

――ブランド名の由来をお聞かせ願えますか。

ブランド名の『Murir(ミュリル)』は、「熟す、実る、成熟する、熟成する、熟させる、練り上げる、円熟させる」といった意味を持つフランス語「mûrir」に由来する造語です。「大人のミルクチョコレート」という位置づけのブランドなので、“成熟”をキーワードにしました。子どもの頃に慣れ親しんだミルクチョコレートのホッとする甘さは、どこか懐かしく温かい気持ちにさせてくれますよね。そんなミルクチョコレートのやさしい記憶をたどりながら、成熟した大人の味わいを楽しんでほしいという願いを名前に込めています。また、頭文字の「M」をモチーフにしたロゴマークには、なだらかな曲線を施して、チョコレートを口にしたときに感じるノスタルジックな一面や衝動、そして、新しいミルクチョコレートとの出会い、心のときめきを示す“バイブレーション(振動)”を表現しました。

――ブランドを立ち上げようと思った理由や経緯を教えてください。

今回の新規ブランド立ち上げは、お客様との新たなコミュニケーションの機会を開拓することを目的としたプロジェクトです。基本的に百貨店を通じてブランドを展開してきた当社にとって、このコロナ禍の影響は甚大でした。今でこそ街の人出は戻ってきましたが、休業や時短営業など、お客様へ思うように商品をお届けできず、厳しい状況が続きました。仮に、今後この状況が終息し、落ち着いたとしても、予測不可能な変化の大きいこの時代に、どうすれば我々のお菓子でお客様に永続的な笑顔と幸せをお届けできるだろうか。そう考えたときに、既存の店舗展開に加え、お客様へダイレクトに商品をお届けできるビジネスモデルの基盤を築くことが急務だと考えたのです。より多くの人々の豊かな生活に貢献するために、新たな事業の柱を築くという選択に至りました。

――ブランドにどんな想いが込められているのでしょう。

ブランドのコンセプトは「自分軸を持つ『かっこいい大人』に向けた、おいしいミルクチョコレート専門店」です。近年ハイカカオや機能性チョコレートに焦点が当たっていますが、大人のみなさんが疲れたときに口にしてホッとするのは、やはり子どもの頃から親しみのあるミルクチョコレートではないかと思います。毎日が忙しく過ぎていく生活の中で日々頑張っている方々に、上質なミルクチョコレートでくつろぎのひとときをお過ごしいただきたい、ゆったりとした自分時間を楽しんでもらいたい、そんな想いを込めました。

――友田さんがお考えになる「かっこいい大人」の定義とは?

自分の時間や自分らしさを大切にされている方、もしくは大切にしたいという価値観をお持ちの方です。Murirというブランド自体、素材そのものを生かし「飾らない・そのままのおいしさ」を魅力の一つとして掲げていますので、素材やデザイン、生活の質にこだわっている、こだわりたいという方にこそ、ぜひ召し上がっていただきたいと考えています。

生産者や環境にも配慮したサステナブルな商品づくり

――そもそも、なぜチョコレートにフォーカスしたのですか?

お客様が真に求めているものは何なのか?という視点で、消費動向や市場調査の資料をもとに検討を重ねていく中で、みんなに愛されるお菓子として浮上したのがチョコレートでした。また、当社では「ヴィタメール」という別のチョコレートブランドを展開してきた実績があり、これまで長年にわたって培ってきた技術力や強みを最大限に生かせるという確信があったことも大きいです。誰もが小さい頃から親しみのあるミルクチョコレートを、“おとな”が楽しめる新しいカテゴリーのチョコレートとして、提案していくことにフォーカスしました。

――ブランドを立ち上げるにあたって、どんなことにこだわりましたか?

やはり、大人向けのミルクチョコレートという点です。単に甘いだけではない上質なミルクチョコレートを、どうつくりあげるか。舌の肥えた大人の味覚に堪えられるよう、ミルクの選定やカカオの産地、素材の組み合わせなど、何度も試作を重ね、オリジナルミルクチョコレートの開発に至りました。最終的に組み合わせたのは、ユネスコ生物圏保存地域で育つストレスのない乳牛からいただいた稀少なメドゥミルクと、農園の環境や生態系に配慮して調達された高品質のエクアドル産カカオ豆です。ミルクのやさしさとカカオの深みを共存させ、味わい深い「大人のミルクチョコレート」を実現することができました。昔ながらの原材料と製法にこだわり、チョコレートを購入することが伝統技術の存続にもつながります。

――このチョコレートを購入することは、サステナブルな選択にもなるわけですね。

今回、原材料の手配にご協力をいただいたのは、スイスで100年以上の歴史を持つ老舗チョコレートメーカーのフェルクリン社です。フェルクリン社では独自のガイドラインを設けており、カカオ豆の生産地と農地の環境を厳しくチェックして、生態系を守りながら、サステナビリティの実現に寄与されています。地球環境に対する意識が高まる中、「同じような商品を買うなら社会貢献につながるものを選びたい」という方が増えてきました。Murirはそうした時代のニーズにもマッチしたブランドだと自負しています。

慌ただしい日常にホッとできるひとときを届けたい

――ブランドを立ち上げるときに特に苦労したポイントを教えてください。

今までにない新しいコンセプトのミルクチョコレートとして、ブランドの独自性を際立たせ、ぶれない軸をつくるまでが困難な道のりでした。世の中には、既に安価でおいしいミルクチョコレートがたくさん流通しています。その中で、どうやったら大人の方々に手に取ってもらえるか、既存商品と差別化を図るために具体的にどうしたらいいのかという点に頭を悩ませました。

――世間一般には「大人は甘いものを好まない」「大人のチョコレートといえばビター」といった概念が浸透していますよね。

おっしゃるとおりです。そうした背景から、なぜあえてミルクチョコレートなのかを訴求し、「ミルクチョコレート=甘くて子どもっぽい」というイメージを根本から変えていく必要がありました。行き着いたのは、ミルクの味に奥行きや深みを持たせることです。人それぞれ歩んできた「人生」と「ミルクチョコレート」を、今回追及した「味わい深い」というキーワードで紐づけ、“おとな”が「ミルク(チョコレート)」を嗜む世界観をつくりあげることにしました。

――大人向けのチョコレートとして、どのような点にこだわりましたか?

素材本来のうま味を追求しました。コクや深みがしっかり感じられ、口どけがよく、なめらかな食感が特徴です。1枚でも十分な満足感や充足感が得られますが、2枚3枚と食べ進めてもくどい甘さにならないよう、すっきりとした後味に仕上がっています。味の決め手となっているのが、先ほどお話ししたメドゥミルクです。人工飼料を一切使用せず、広大な敷地でのびのびと過ごし、牧草のみを食べて育った牛たちから絞られた生乳は、さわやかですっきりしたおいしさの中に、奥行きのある豊かな風味が感じられます。カカオ豆の深みのある香りや味わいを追求しながらも、ミルクで後味をうまく切れるように工夫しました。

――ユニセックスなパッケージデザインがおしゃれですね。

男女問わず召し上がっていただきたいので、男性が持ち歩いても違和感のないパッケージに仕上げています。大人向けということで、派手な装飾で飾るというより、飾らない日常に溶け込みながらも存在感を発揮できるようグラフチェックを採用しました。部屋のインテリアにも自然になじむシンプルなデザインです。空き箱もおしゃれにリユースしやすいのではないかと思います。

――この商品をどんな大人にどんなシチュエーションで食べてほしいですか?

日々頑張って過ごしている方々が、ホッと一息ついてくつろぎの時間をお過ごしのときに、召し上がりいただきたいです。1人で考えごとをしながら静かな時間を過ごすときはもちろん、心おきなく話せる家族や友人とゆったりした時間を共有するときも、みなさまのリラックスタイムに少しでも寄り添えたらと思っています。仕事や家事、育児などで忙しいときこそ、ほんのひととき自分を甘やかす時間も必要です。自分の心地よさを大切にしたい、そんな気持ちを大切にされている方こそ真の大人だと思います。自分を甘やかす時間に、Murirのミルクチョコレートをお供にしていただけたらうれしいですね。

一粒一粒に作り手の想いをのせて

――ブランド立ち上げの楽しさはどんなところに感じますか?

膨大な情報を収集し、何度も試行錯誤を重ねるといった、生みの苦しみはありますが、さまざまな意見や視点を取り入れながら、自ら考えたものが少しずつ形になっていくことに喜びと楽しさを感じます。1人では到底無理なことを成し遂げられたのは、社内外問わず、多くのみなさんのお力添えがあったからこそです。それぞれ得意とする分野の知識や経験を共有し合う過程で学び、多くのことを吸収できました。それがチームとしてブランドを立ち上げる醍醐味なのではないかと思います。

――今後ブランドをどのように展開していきたいですか?

時代とともにブームや流行は変化していくとは思うのですが、昔から愛され続けるミルクチョコレートの伝統を守りながら進化させていきたいです。「“おとな”が嗜むミルクチョコレート」の世界を発信し続けることで、「大人になったら、ミルクチョコレート」「上手に自分を甘やかすことができる人こそ、大人だよね」という考えが広まれば、自分を大切に丁寧に暮らす方が増えるのではないでしょうか。そういったメッセージ性を込めて、展開していきたいと考えています。

――このブランドを通して実現したいこと、お客様へ届けたいものを教えてください。

こだわりのミルクチョコレートで心地よいひとときを提供し、お客様に笑顔と幸せをお届けすることがミッションではありますが、単純にそれだけではなく、D2Cという特徴を生かして、ブランドストーリーはもちろん、作り手の想いや製造過程についてもお客様に届けていく予定です。それぞれの商品に、お客様がご自身を投影できるようなストーリーを綴っていくので、共感しながら楽しんでいただけるとうれしく思います。